ある夫婦が、ふと思い立ってサイクリングに出かけることにした。
ところが、いくらも行かないうちに忘れ物に気付き、家に戻らなければならなくなった。
そして、二人が忘れ物を取りに家の中に入っていたわずかの時間に、カギをつけたまま玄関先に置きっ放しにしていた自転車は忽然と姿を消していた。
夫婦はしばらくの間、街のどこかに盗まれた自転車が放置されていないか探して回ったが結局見つけることはできなかった。
自転車が盗まれたのは自分たちの落ち度だとあきらめて家に帰ってみると、盗まれたはずの自転車が置いてある。
そして、それには詫び状が付けられていた。
「どうしても自転車が必要な事情があったので、無断でお借りしてしまいました。
ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。ついては、お詫びの品を差し上げます。」
見ると、舞台のチケットが詫び状に添えられている。
夫婦は、この贈り物に大喜びし、さっそく観劇に出かけた。
そして、二人が家に帰ってくると、家の中の家財道具が全て持ち去られ、このような張り紙がされていた。
「あなたたちは本当に好い人です。ありがとう!」